2011年に東日本大震災,2016年には熊本地震がおき,多数の死傷者が出ました.当院の位置する三重県においても30年以内に70〜80%の確率で南海トラフ巨大地震が起こるとされ,日頃からの災害対策を考える必要性があります.こうした中,私達は様々な災害訓練を行い,災害拠点病院の指定を受け,DMAT隊員養成研修に参加,その他,様々な備えを行なっています.
災害拠点病院とは,阪神・淡路大震災を受け,当時の厚生省の発令によって定められた「災害時における初期救急医療体制の充実強化を図るための医療機関」になります.阪神・淡路大震災では,防ぎ得た災害による死が約500例あった可能性が報告されており,その原因の一つが災害医療を中心的に担う病院がなかったこととされ,災害拠点病院の指定・整備が進められてきました.
今までは津市の災害拠点病院は三重大学病院のみでしたが,当院は,①内陸にあり津波,液状化の危険が低い.②津市消防本部や警察,自衛隊が近隣にあり有事の際には連携が取りやすい.③高速道路が近いので医療スタッフ,患者さんの搬送面で有利である.このように好条件が揃っていて,日頃から救急医療に力を注いでいるので,災害時の活動も期待され,三重県より2017年8月22日に災害拠点病院として指定されました.これからは三重大学病院と連携をとり,津市のさらなる災害医療体制の強化に努めたいと考えています.
病院幹部(副院長)を委員長とし,毎月委員会を開催し,災害対策を検討している.院内には,災害倉庫に必要な資機材を準備してあり,ライフラインの途絶を想定して自家発電機を設置し,重油を大量に備蓄し,井戸水の飲料することを可能にする高機能の浄水機を設置している.
看護師を中心に各病棟の担当者が集まり,部署ごとでの災害対策を考えるチーム会です.主な活動して災害対策委員会での決定事項の周知徹底をはかり,災害対策に対しての啓蒙と災害物品の保管・管理等の役割を担って活動を行っています.今年度は,部署別の災害シナリオ訓練を実施して,スタッフ皆がいざという時に備えられるよう,新たな活動を始めています.
【DMAT(Disaster Medical Assistance Team)】
DMAT(Disaster Medical Assistance Team)は,先に述べました,防ぎ得た災害による死をゼロに近づけるために,2005年に厚生労働省によって発足された災害急性期に活動できるようにトレーニングを受けた機動性を持った医療チームです.DMATの構成メンバーは,医師1名,看護師2名,業務調整員1名の計4名を基本構成とします.業務調整員とは,満足な医療活動を行うための環境整備を専門に行う隊員です.一定の職種はなく,薬剤師,放射線技師,検査技師,MSW,事務職など多岐にわたります.しかし,DMATだけでは被災地域や被災者を助けることは出来ません.地域の医療機関や消防,警察,自衛隊,市や県などの行政との「連携=顔の見える関係」を構築することも重要と考えています.業務調整員は,医療活動以外の業務を担う,まさに『何でも屋』の隊員です.
当院にはDMATは他施設で取得した医師2名,看護師1名,業務調整員(薬剤師)1名だったのですが,現在では志を同じくした多くの仲間(隊員)が増えました.こうした災害急性期の活動を研修した仲間が増えることは,災害時に院内外の活動を
行う上で有利に働きますし,日頃からの院内外への災害医療を浸透させる活動などを迅速に進めることが可能になります.
→当院DMAT隊員紹介ページ
平時よりDMAT隊員を中心に派遣時に必要な資機材の管理している.全国で災害発生時には,DMAT隊員は災害対策室を設置して,出動調整やEMISやテレビ,インターネットを利用して情報収集を行っている.
【災害対応訓練】
院内訓練とおいて,地震を想定し地域3師会(医師会,歯科医師会,薬剤師会)などの近隣機関と連携して大規模災害訓練を行なっています.また,幹部職員を中心とした災害対策本部機能訓練や,近隣の高速でバス事故を想定した小規模災害訓練を行っています.
また,院外訓練では,内閣府主催大規模地震時医療活動訓練にも参加しています.三重県の訓練や津市の訓練にも企画の段階から参加し,地域のために最善を尽くしています.
【院内研修会】
院内職員向けに災害対応スキル向上のために様々な院内研修を企画・運営を行っています.
災害医療についての講義や実習を1日かけて学んでもらい、災害対応のエキスパートになってもらうコースです。災害対策委員会が中心となり、1~2回/年 開催しています。院内職員に非常に好評で、噂を聞いて院外からも参加者・見学者が来てくれます。
2017年5月~2020年3月まで計8回の”災害対応エキスパートコース”を実施し、今では病院内全職員の4人に1人はエキスパートコース修了者となっており、心強い限りです。またエキスパートコース修了者の知識や技術を維持するための”技能維持コース”も年1回実施しています。元々は、「災害の時に同じ考えを持って、中心になって動くことができる人材を育てよう」ということで、始まったコースでした。しかし、院内の災害訓練においてエキスパートコース修了者が各持ち場で中心となって活躍してくれることで訓練の質が上がっただけでなく、その活躍に刺激を受けた他の職員がエキスパートコースを受講したいと希望してくれるという相乗効果も産み出しました。きっと災害が起こってもエキスパート達が活躍してくれると思いますし、頼りにしています。
当院は災害拠点病院となり、災害時に多数傷病者が来院することが予測されます。その備えとして全職員を対象に2017年度からSTART法トリアージ勉強会を開始しました。さらに2018年度からはSTART法・トリアージタグ勉強会へステップアップし、隔月で勉強会を開催しています。講義形式だけでなく、症例カードを使用しトリアージを実施、またbuddy systemで模擬患者に対しSTART法トリアージ・トリアージタグ記載を行っています。受講者は看護師が多いですが、他職種の参加もあり、職員が災害対応スキル向上に努めています。
当院は災害拠点病院としての役割を果たすためEMIS(広域災害・救急医療情報システム)に参加し、災害時に情報管理を行える体制を整えています。
EMISとは災害時に全国の災害医療情報をインターネット上で共有し、被災地域での適切な医療・救護にかかわる情報を集約・提供する厚生労働省が運営するシステムです。
このシステムは、都道府県や市町村、医療機関、医師会、保健所、消防機関などがネットワークで結ばれ、連携しながら医療機関の傷病者の受け入れ状況や、被災地に派遣されたDMATや医療チームの活動状況の把握を行い、医療体制の確保を行います。
災害時にEMISにて行う情報管理は重要な役割を担うため、当院は災害時に職員が滞りなく情報入力・情報収集・情報発信等を行えるよう定期的にEMIS勉強会を実施し災害時に備え努めています。
災害対策委員会として、当院全職員対象の災害対策勉強会を1回/2カ月行っています。災害対策のための基本的な内容や、災害現場での実体験などを講義して、災害対策に対する興味を持ってもらい、病院全体として災害対応能力が向上していくことを目指しています。また、座学だけでなく、実際に院内の災害対策に関する施設(災害対策倉庫、非常電源設備など)を参加者と見学したり、災害時に使用するエアテントやバルーン照明器を一緒に使用し、実際に体験することでより一層理解を深めてもらうように努めています。