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2024年4月24日
三重タイムズへ掲載

輝いて

2024年4月11日
地域から信頼される病院を目指して

 三重中央医療センターのホームページにアクセスしていただきありがとうございます。
2022年4月より、病院長を拝命しております下村です。よろしくお願いいたします。
 当院は1998年、国立病院・療養所再編成計画の一環として、国立津病院と国立療養所清澄病院が合併し、国立三重中央病院として新築整備されました。2004年、独立行政法人へ移行し、国立病院機構三重中央医療センターと改名し、中勢伊賀医療圏の急性期総合病院として地域医療を支える一方、結核や災害、感染症など政策医療においても県の中心的施設としての役割も担っています。
 当院は結核及び第2種感染症指定医療機関であり、感染症病棟を有し、新型コロナパンデミックでは地域の重点医療機関として県内第一例目から対応してきました。2023年9月まで1100人以上の入院(うち妊婦147人)患者を受け入れ、4000人以上の発熱外来患者に対応し、7300件の新型コロナ関連検査を行ってきました。第8次医療計画では新興感染症が6事業目として認定されますが、当院も感染症病棟内の結核病床の一部をモデル病床とすることで、新たな新興感染症にも対応できる体制を整備しました。
 当院は地域医療支援病院であり地域の医療機関からがんや糖尿病、呼吸器、消化器、循環器、脳神経疾患など幅広い領域の患者様をご紹介頂き、診療を行っております。
 また当院は2003年に三重県で初めて総合周産期母子医療センターに指定され、24時間体制で母体・新生児搬送を受け入れています。母体救命への対応、ハイリスク妊婦に対する医療、高度な新生児医療を担うほか、県内で唯一Baby Friendly Hospital(赤ちゃんにやさしい病院)認定病院であり、母乳育児の推進・サポートを行っています。コロナ禍では2023年9月まで147例の新型コロナ感染妊婦の分娩を担当してきました。
 一方当院は津市の2次救急病院であり、脳卒中や急性心筋梗塞などの3次救急も担当しています。津市の救急車要請件数は年々増加しており、今年度は1万7000件を超える見込です。当院の救急車の受け入れ件数も年々増加しており、今年度は5500件(津市救急車の約1/3)に達する見込みです。4月には新救急外来棟が完成し、津市の救急医療において当院の果たすべき役割はますます重要になると思います。 
 当院は県が指定するがん診療準拠点病院で呼吸器や消化器、泌尿器、婦人科領域でのがん診療を行っており、Cancer boardを定期的に開催し多職種で治療方針を検討し、緩和ケアチームも積極的に介入しています。年1回市民公開講座や緩和ケア講習会を開催し、市民や地域の医療者に対する研修啓発活動を行っています。
 当院は2017年、三重県から災害拠点病院に指定されました。大規模災害発災時には当院DMATが県調整本部に入り、院内にDMAT活動拠点本部を立ち上げ、伊勢志摩や県南部からの傷病者の受け入れ・搬送する役割を担います。
 以上のべてきたように当院は様々な重要な役割を担っております。今後ますます地域の医療機関や住民の皆様から信頼される病院となれるよう、診療機能や医療の質を高めていきたいと思います。皆様のご支援ご協力をよろしくお願い申し上げます。

2024年1月16日
巻頭言

 2024年1月1日、能登半島をM7.6の巨大地震が襲いました。被災された住民の方々には心からお見舞い申し上げます。当院DMAT隊も輪島市で支援を行っていますが、今回の震災では道路が寸断され孤立した被災地に支援物資を届けることが難しく、医療者が救援に行くことができないことが大きな課題となっています。断水でトイレなどの衛生状態が劣悪となり寒い避難所では感染症が蔓延している状況で、被災者の避難がなかなか進まない状況が続いています。今回の震災では当院も初めてDMAT隊を被災地へ派遣しました。今回の派遣を教訓として来るべき南海トラフに備えて今後どのような準備をしていくべきか?しっかりと検証する必要があります。
 さてこの度、2022度の研究業績集を発刊することができました。臨床研修活動実績では当院は2021年度総点数が488.5ポイントでNHO130施設中47位でしたが、2022年度は学会発表が大幅に増えたことで総点数が953.6ポイントと倍増し、140施設中17位と好成績を記録しました。2023年度上半期は看護部や薬剤部では大幅な人員不足により過酷な勤務状況であったと思います。少ないスタッフでコロナとも戦いながら研究実績も更新して頂いたことに対し、職員の皆さんには心から感謝申し上げます。特に11月の国立病院医学会では35演題もの発表があり、うち5題が優秀演題に選ばれました。また4年ぶりに開催された全員懇親会では当院周産期センターが理事長賞を頂き、壇上で理事長から表彰状を授与されました。学会に参加いただいた多くの職員がかきやお好み焼きを食べながら広島の夜を堪能し親睦を深めていただけたなら幸いです。来年度の国立病院医学会は10月18日大阪で開催されます。職員の皆様にはこぞって参加して頂き日頃の研究成果を発表していただきたいと思います。臨床だけではなく研究や論文発表にも積極的に取り組んで頂き、若い医療職に選ばれる活気ある職場になりますようご尽力頂けたらと願っております。
 最後に日頃より臨床研究活動を支援していただき、本誌の発刊に尽力いただきました臨研究部スタッフの皆さんに心から感謝いたします。

2024年1月6日
年頭所感

 1月1日16時すぎ、令和6年能登半島地震が発災。元旦から登院し情報収集を開始し3日DMAT1次隊を派遣、6日2次隊を派遣しました。発災当初は道路が寸断され能登半島北部の病院の支援ができない状況でしたが、3日ごろからは輪島市や珠洲市にもDMATが支援に入り、当院DMATも4日夜から市立輪島病院で支援活動を行っています。当院職員の中にも石川出身者がおり、実家で被災した方や両親が今も避難所暮らしの方もいて生々しい当時の状況をきくことができました。とにかくトイレが大変で断水のためいたるところで汚物が溢れ使えない状況だそうです。国立病院機構からの情報によると七尾市内の七尾病院では停電で暖房が使えないためファンヒーターをかき集めて病室に持ち込み暖をとっているそうです。金沢市内の金沢医療センターでは能登地方から多くの透析患者や骨折患者を受け入れています。今回の震災では自衛隊やDMATだけではなく消防や行政も初動が早いのを感じます。東北や熊本での教訓が生かされているのだと思います。しかし南海トラフ地震ではこのような動きができるかは難しい問題で、三重県でもいたるところで能登半島のような状況がうまれるでしょうし津波被害が甚大で救護もままならないでしょう。当院も金沢医療センターのように傷病者を受け入れる拠点病院の一つとならなければいけないと思います。今回三重県からもたくさんのDMATが石川県に派遣されていますが、南海トラフ地震では逆に北陸からDMATが駆け付けてくれます。新型コロナの時と同様に県内の災害拠点病院が連携して多くの被災者を救護しなければければなりませんし、やはり事前にどれだけ準備ができるかが重要だと思います。
 最後にご自身被災しながらも懸命に救護にあたってみえる石川県内病院スタッフの方々に心から敬意を表しますとともに北陸の住民の方々には心からお見舞い申し上げます。

2024年1月6日
新年のご挨拶 ~日常が戻りつつある今、思うこと~

 2024年 新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
 院長として2回目の新年を迎えます。昨年正月は第8波の真っただ中で不覚にも私自身コロナにかかり、職員の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。2022年度はコロナ患者を受け入れながらも救急車受け入れ台数も手術件数も過去最高を記録し病院経営は改善しました。しかし喜びもつかの間、コロナ禍での過重労働によりスタッフの離職が相次いだため、2023年上半期は一時入院患者を制限せざるを得ない状況に陥りました。このことを受けて2023年度の病院目標の一つに“認め合い支え合う職場環境の構築”を掲げました。ハラスメント防止宣言を行い、ハラスメントのない働きやすい職場環境の整備を進めてきました。コロナも5類に移行し、職員には親睦を深め、コニュニケーションをとれる機会を持つように奨励しました。4年ぶりとなるビアガーデン大会や大規模災害訓練、ミエチュウオウ文化祭などの様々なイベントを開催しました。どのイベントも大盛況で、特にミエチュウオウ文化祭では職員以外にも久居消防や市民ボランティアの方々にステージで演奏や踊りを披露して頂き、マルシェやキッチンカーのお店も出店して頂きました。来場者は1274人と過去最高となり、地域の皆さんが一緒に楽しんで頂いているのをみて、きっと皆なコロナ禍の間こういう日がくることを待ち望んでいたのだと感じました。ご協力いただいた皆さんには心より感謝申し上げます。これからも地域の皆さんとの交流を大切にしていきたいと考えています。
 9月には病院機能評価を受審しました。評価者からは当院職員が意欲的に改善に取り組んでいる事を高く評価して頂き、無事認定を頂きましたが、私自身“医療の質”ということを改めて考えさせられました。これまでは病院経営のために改革を進めてきましたが、当院の理念である“安心で質の高い医療” を実現するためにはまだまだ改善すべき課題があることがわかりました。今後は医療の質という面からもしっかりと改革に取りくんでいきたいと思います。
 さてこの1年私は毎朝、新救急外来棟が少しずつ形になっていくのを眺めながら登院しております。まだ周囲には足場が組まれており、全貌はわかりませんが、4月に運用開始予定です。津市の救急車要請件数は右肩上がりに増えており、今年度の当院の救急受け入れ件数は5500台に達する見込みです。今年はいよいよ医師の働き方改革が施行されますが、幸い多くの初期研修医が当院で引き続き後期研修医として活躍してくれる事がきまっており、大きな力となってくれます。当院スタッフは厳しいコロナ禍を乗り越え、たくましく成長しており、これからも救急医療、周産期医療、がん医療など地域に求められる医療をしっかりと支えていきます。
 地域の皆様のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

2023年3月10日
地域から信頼される病院を目指して

 令和4年4月1日、新しく院長を拝命しました下村誠です。どうぞよろしくお願いいたします。私は三重県大台町の生まれで、松阪高校を出て三重大学にすすみ、卒業後は三重大学第一外科(現在の肝胆膵・移植外科)に入局し、開院の翌年1999年に初めて当院に赴任しまいた。10年間外科医として研鑽をつみましたが、2009年に松阪市民病院へ転勤し、2019年10年ぶりに当院に副院長として復職しました。
副院長として就任後すぐ、私は次の3つの目標を掲げました。
1. 地域の医療機関からの選ばれる病院になる。
2. 地域の住民から選ばれる病院になる。
3. 医師から選ばれる病院になる。
1については、着任早々、地域の医療機関の先生方を訪問して、直に当院の評価や当院に対する要望を伺いました。中には厳しいご意見もありましたが、多くの先生から最近当院がよくなってきている、とりわけ救急患者の依頼を受けてくれるようになったというお言葉を頂きました。2020年には地域の医療機関との連携をさらに進めていくために患者支援センターを設立しました。このセンターでは地域の医療機関からの紹介や逆紹介を円滑に進める地域連携室と、入院がきまった患者様の退院後の生活のことまで考え治療計画をたてる入院支援室を整備しました。今後も当センターの活動をとおして顔の見える地域連携を目指して参ります。

2については、まずは津市の2次救急病院としての役割を果たすことに力を注いできました。当院は一次脳卒中センターであり、急性心筋梗塞や急性腹症など多くの救急患者を受け入れております。今年度、当院は新たに常勤の救急医を招き、救急科を開設します。新救急棟の建設も決定し、今後ますます2次救急医療機関としての役割を果たしていくことで地域住民から選ばれる病院にしていきたいと考えています。

3については初期研修医の確保に尽力してきました。今年度は8名の新たな初期研修医の入職が決定し、総勢14名の初期研修医が当院で研修する予定です。また後期研修医も7名新たに加わります。指導体制を整え、若い医師の確保を着実に進め行くことが医師の働き方改革にも寄与します。医療水準を落とさないように、医師の働き方改革をすすめながら、医師から選ばれる環境づくりを進めていきたいと考えています。

この目標は今後も基本的方針として継続し、真に地域から信頼される病院を目指していきたいと考えております。
さて、2020年1月以来、新型コロナ感染症は2年以上我々を苦しめ、通常診療や救急医療は大きな影響を受けております。第6波では職員一丸となって新型コロナ感染症に立ち向かっており、三重大学医学部付属病院はじめ地域の医療機関様には多大なご支援をいただいております。院内の全職員および地域の医療機関の皆様には心から感謝いたします。新型コロナ感染症は当院だけの力では乗り越えることはできません。地域の医療機関や医師会、救急隊、行政の方々といっしょに、今後どのように連携していくかを皆で考えていくことこそがアフターコロナの最も重要な課題だと考えております。新型コロナウィルスに限らず今後起こり得る新興感染症の重点医療機関として中心的役割を担っていくことも当院の重要な役割と考えております。
今後ともご支援ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

2022年12月7日
巻頭言

 令和4年は1月に第6波が、7月に第7波が襲来し、三重県でも1日の感染者数が過去最多の4600人に達し、累計の感染者は第7波だけで約12万人と過去に類を見ない数になおよんでいます。そして年の瀬を迎え第8波が猛威を振るい始めています。しかし、オミクロン株になってウィルスが弱毒化したことで行動制限なしの感染対応となり、次第に学会も従来の現地開催が増え、11月には国立病院医学会も3年ぶりに現地開催(熊本市)となり、当院からも多くの演題発表がありました。これまでweb発表しか経験がなかった研修医の先生方もたくさん発表していただきましたが、皆さん聴衆を前に堂々と発表され、若かりし頃の自分を思い出して“今の研修医はしっかりしているなあ”と感心しました。コメディカルや看護学校からもたくさん演題をだしていただきできる限り皆さんの発表を聞きて回りましたが、やはりface to faceで議論する現地開催の良さを感じましたし、夜はみんなでおいしい九州のお酒を飲んでコロナでたまったストレスを発散していただけたと思います。私にとっても職員の皆さんとの親睦をはかる貴重な時間となりました。今回、コロナの影響で看護部からの発表が少なく残念でしたが、コロナ以前は看護師からの発表も多かったと聞いております。来年は広島で開催されますが、ぜひより多くのスタッフに参加していただきますようお願いいたします。
 さて、この度令和3年度の研究業績集を発刊することができました。令和3年度はコロナ第5波が猛威を振るい、海外渡航は難しく国内学会は殆どweb形式であったと記憶しております。にも関わらず、1件の国際学会発表と158件の国内学会発表がありました。さらに英文原著論文数では、筆頭論者が12件あり、病院評価でも131施設中の19位とNHOの中でも高い評価をいただいております。職員の皆さんの学術研究に対する高い意欲がうかがわれます。このような積極的な姿勢は是非これからも継続していただき、若い医師やコメディカルにとって魅力ある職場になりますよう病院として取り組んでいきたいと考えております。職員から選ばれる医療機関となるよう今後も努力していきますので、ご支援とご協力を賜れば幸いです。
 最後に日頃より臨床研究活動を支援していただき、本誌の発刊に尽力いただきました臨床研究部スタッフの皆さんに心から感謝いたします。

2022年11月30日
新年のご挨拶 ~新型コロナウィルスとの闘いの中で~

 新年あけましておめでとうございます。
 2022年は1月に第6波が、7月に第7波が襲来し、三重県でも1日の感染者数が過去最多の4600人に達し、累計の感染者は第7波だけで約12万人と過去に類を見ない数になりました。そして11月15日「第8波が始まった」と一見知事が宣言しましたが、この文章が発表される1月初旬、新型コロナウィルスの感染状況はどうなっているのでしょうか?今年こそ新型コロナが終息することを願うばかりです。
 当院は国が指定する第2種感染症指定病院で専用の感染症病棟を完備し、平時から結核やインフルエンザ感染患者の治療にあたってきました。今回の新型コロナウィルスパンデミックでは津地区の感染者を受け入れる重点医療機関として2020年1月から2022年11月15日まで約870人(県内で最多)の入院患者を受け入れて治療をしてきました。この中には妊婦が119人含まれ、22件の分娩と23件の帝王切開を行ってきました。分娩や帝王切開では対応する医療者が感染するリスクが非常に高く、当院は県内の感染した妊婦のほとんどを受け入れてきました。新型コロナ感染で最も影響をうけたのは救急医療です。発熱患者をのせた救急車が何件も病院から受け入れを拒否され、津地区は県内で最も救急搬送に時間を要する事態になっていました。そこで当院は第5波以降、津地区のコロナ患者を24時間体制で受け入れながら、一般の救急車もできる限りうけいれる体制を整備してきました。第7波では当院のコロナ病床は一時ほぼ満床状態が続き、院内感染で2病棟を閉鎖するといった危機的状況に陥りましたが、何とか職員全員が一丸となって津市のコロナ対応と救急医療を死守してきました。この間、近隣の医療機関様には多大なるご支援を頂き地域の連携がいかに重要かを実感いたしました。津および久居一志地区医師会及び県調整本部や保健所、津市、救急隊の皆様のご支援にも心より感謝いたします。
 しかしながら、現状の津地区のコロナ対応が十分かというと、決して十分とは言えません。第7波だけで県内で高齢者を中心に220人が死亡しました。老健施設で亡くなられた方もみえます。波を重ねるごとにコロナ感染者は爆発的に増えています。第8波ではコロナとインフルエンザの感染が同時発生し、第7波以上の感染者数が予想されています。津地区のコロナ入院患者を今の体制でカバーすることはさらに難しくなりますし、救急医療もさらに混乱すると思います。当院のスタッフは今も、心折れそうになりながらも懸命に新型コロナウィルスと戦っていますし、救急外来では次々に運ばれてくる救急患者に必死に対応しています。5類への移行が議論されているなかで、ひとりでも多くの医療者が、一つでも多くの医療機関がコロナ対応に関わっていただきますようお願いします。また地域の住民の皆様におかれましてはマスク会食や十分な換気など基本的感染予防策を徹底していただきますようお願いいたします。当院はこれからも地域から信頼される医療機関となるよう努力していきますので、ご支援とご協力を賜れば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2022年11月4日
コロナに翻弄され続けた3年

【自己紹介】
 令和4年4月1日、新しく三重中央医療センター病院長を拝命しました下村誠です。
 趣味は硬式テニスですが、60歳になり体が思うように動きません。コロナ禍で練習もままならず、テニス観戦へはいけなくなり、錦織圭選手も長期離脱し、憧れのロジャー・フェデラー選手も引退し、現在テニス熱は最低レベルになっております。ゴルフもします。恩師の小倉嘉文先生(元松阪市民病院院長)の主催するコンペで20年以上幹事をしていました。コロナ禍で3年クラブを握っておりませんでしたが、今年から三重中央杯ゴルフコンペをはじめました。職員のコロナでたまっているストレスを発散してもらい、親睦をはかるのが目的です。コロナ前には医師会のゴルフコンペにも参加させていただいておりました。また開催されることを心待ちにしております。出身は三重県の大台町です。1986年三重大学医学部を卒業し、第一外科(現在の肝胆膵・移植外科)に入局、大学院を卒業後は関連病院を転々とし1999年に三重中央医療センターに赴任しました。当時は腹腔鏡手術の黎明期で県内ではまだほとんどの施設で施行されていませんでしたが、2000年代になると全国的に早期胃癌や大腸癌など目覚ましい勢いで腹腔鏡手術が普及していきました。当時私は外科医局では最年少でしたが、上司の理解もあって独学でこの手術を胃癌や大腸癌、副腎や甲状腺腫瘍など多くの疾患で取り入れてきました。2009年松阪市民病院へ転勤後も研鑽をつみ、2012年当時三重県内では3人目の日本内視鏡外科学会技術認定医となりました。2019年に当院へ副院長として帰ってからは、メスをおき管理職に専念しておりますが、優秀な後輩外科医達も次々と技術認定医を取得しており腹腔鏡手術を上手にしているのを見ると隔世の感を禁じえません。

【病院経営について】
 不在であった10年間に当院は国立病院から独立行政法人となり、電子カルテが導入されDPC病院となり経営について国立病院機構本部から厳しい指導がはいるようになっていました。三重大学はじめ市内の病院が軒並み新病棟を建設し、当院の患者数は徐々に減少し、当院は経営的に厳しい状況にありました。そこへ追い打ちをかけるように2020年1月新型コロナ感染パンデミックが襲来し、当院は経営的に大きな試練に直面しておりました。私は経営分析チームを立ち上げ、全診療科の患者数や紹介数、救急患者数など診療実績を可視化し、職員全員に経営意識をもってもらいました。コロナ禍で入院患者数が減少する状況で日当点を向上させることを目標とし、様々な加算や指導料を徹底して算定するように呼びかけました。病院スタッフも危機的な状況を理解してくれ、文字通りone teamとなって協力してくれました。感染の波を乗り越えるたびに当院はたくましく成長し、コロナ禍でも救急医療や通常診療を継続することができるようになり徐々に経営状況も改善してきております。

【地域連携について】
 このように新型コロナ患者を多く受け入れながら通常の診療や救急医療を継続していくために、今後はより重症で急性期治療が必要な入院患者に労力を集約する必要があります。2022年診療報酬改定の中でも外来診療の機能分化と連携が叫ばれ、かかりつけ医制度の推進と紹介患者重点医療機関の指定が提唱されています。当院も紹介患者重点医療機関となり、積極的に紹介患者を受け入れ、治療が完結した患者様はかかりつけ医に逆紹介していく体制を推進していこうと考えております。そして地域支援病院として地域の医療機関から安心して紹介いただける病院を目指していきます。私は2020年地域連携室、入院支援室、がん相談支援室からなる患者支援センターを設立しました。そして地域の医療機関を直接訪問して、当院について様々なご意見を伺いました。緊急の対応を要する患者さまの要請を断らない、紹介いただいた患者さまには責任をもって最新の治療を行い、経過についてはきちんと紹介元に情報提供し患者をお返しする。当たり前のことですが、地道な努力を継続していくことでしか地域の医療機関からの本当の信頼は得られないと考えます。地域の医療機関の先生方と顔の見える関係を構築することが大切と考えています。

【救急医療について】
 当院が地域から求められているもう一つの重要な役割が救急医療です。当院は2次輪番病院であり、津地区救急車搬送の3割にあたる年間約4000台を受け入れています。しかしながら、2019年当時、多くの診療科で医師が不足し、頻回の救急当直で疲弊し、お断り件数も多く、救急医療を支える医師の獲得が喫緊の課題でした。そこで、今年度から救急科を設立し三重大学救急救命センターから江角亮先生に赴任していただきました。一方で臨床研修部を支援し初期研修医の確保に尽力しました。その結果、今年度は初めて8名(フルマッチ)の初期研修医が入職し、現在総勢14名の初期研修医が研修しております。彼らが江角先生はじめ多くの専門医から指導を受けながら、当院の救急医療を支えてくれています。医師の働き方改革が始まろうとしているなかで救急医療の推進には受け入れた患者を治療する様々な領域の専門医が必要になります。来年度には新しい救急棟も建設予定です。さらに若い医師に来ていただいて津市の2次救急病院としての役割をしっかりと果たしていきたいと思います。

【新型コロナ感染について】
 さて、2020年1月以来、新型コロナ感染症は2年以上にわたって、津地区の救急医療に大きな影響を及ぼしてきました。救急車の受け入れ拒否が多発し、令和2年度の津市救急の報告では救急現場で病院選定に30分以上かかった件数は23件/年、4回以上病院照会を要した件数が48件/年と津地区は県内で最も搬送に時間を要する医療圏でした。津市の2次輪番体制は他の医療圏とは異なり中小規模の病院が複数で担当しており、その多くではコロナ対応ができないため、コロナ患者は2次輪番体制のなかでは診療できない状態になっています。第5波のデルタ株ではコロナ陽性の若年の自宅待機者が急性増悪する事例が多発し、陽性者の時間外受け入れが必要になり、三重大学医学部附属病院が多くの患者を受け入れていただきました。当院でも当時コロナ患者は感染対策チームが専従で対応しており、毎日時間外に入院患者を受け入れることは困難な状況でありました。そこで時間外にコロナ対応を担当するコアメンバーを選出し、連日コアメンバーが当直体制で時間外の新型コロナ患者の受け入れを開始しました。第6波からは津地区の成人のコロナ患者は24時間体制ですべて当院のみで受け入れることになり、通常の救急患者は他の輪番病院で受け入れる方針となりました。しかし冬場はどの病院も満床近い状況で、当院以外の施設で津の2次救急を維持することは困難となり、結局当院はコロナ患者を受け入れながら、2次輪番にも対応する体制となりました。第7波では当院のコロナ病床はほぼ満床状態が続き、院内感染で一時は2病棟を閉鎖するといった危機的状況に陥りましたが、何とか職員全員が一丸となって2次輪番を継続してくれました。この間地域の医療機関様には多大なるご支援を頂きました。永井病院と武内病院がコロナ入院病床を開設し受け入れていただきました。多くの近隣施設でポストコロナ患者を受け入れていただきました。また当院で対応困難な重症患者は三重大学医学部付属病院の先生方にお世話になりました。休日診療所や地域の開業医の先生方にはたくさんの発熱患者を診ていただきワクチン接種に貢献していただきました。津地区および久居一志地区医師会及び近隣の医療機関様、三重県調整本部や保健所、津市、救急隊の皆様のご支援には心より感謝いたします。
 しかしながら、現状の津地区のコロナ対応が十分かというと、決して十分とは言えません。第7波では県内で263787人の感染があり、基礎疾患のある高齢者を中心に160人以上の死亡例を認めております。老健施設で亡くなられた方もみえます。2か月で160人が死亡したという事実をどう思われますか?波を重ねるごとに感染が爆発的に増えています。この冬第8波が起こったとき津市内のコロナ入院患者を今の体制でカバーすることは難しいですし、救急医療も混乱すると思います。5類への移行が議論されている昨今、ひとりでも多くの医療人が、一つでも多くの医療機関がコロナ対応に関わっていただくことを心からお願い申し上げます。
  海外からみると日本人は忘れやすい民族だと思われているそうです。日本人は震災や福島原発事故など大きな災害を何度も経験しているくせにすべて忘れてしまったかのように何も対策も講じようとしない。本当に不思議だ?と。今回の新型コロナウィルスパンデミックも多くの教訓を残してくれると思います。今後、新興感染症に対してどのような医療体制で臨んでいくか?救急医療をどうしていくか?様々なレベルで検証して将来のために備えていくことが我々に課された最も重要な命題だと思います。

2022年8月5日
地域から信頼される病院を目指して

 令和4年4月1日、新しく三重中央医療センター病院長を拝命しました下村誠です。
 伝統ある安の津医報巻頭言への執筆の機会を与えていただき、渡部会長、編集委員の河村先生に深く感謝申し上げます。
 私は昭和61年三重大学を卒業し、第一外科に入局、1999年から10年間三重中央医療センターに在籍したのち、2009年に松阪市民病院に転勤し、2019年に三重中央医療センターに副院長としてかえって参りました。不在であった10年間に、当院は独法化し、DPC病院となり、経営について国立病院機構本部から幹部に厳しい指導がはいるようになっていました。病院建設による巨額の借入金を抱え、三重大学医学部付属病院はじめ多くの近隣病院が新病棟を建設するなかで当院の患者数は減少し、2019年当時、当院は経営的に厳しい状況にありました。そこへ追い打ちをかけるように新型コロナが襲来し、2020年の診療報酬改定では看護必要度が維持できるか?当院は経営的に大きな試練に直面しておりました。ただ幸いなことに有能な感染対策チーム(以下ICT)と感染症病棟スタッフが、当初は新型コロナ患者に専従で対応していただき、他の職員はほとんど制約なく通常の診療に従事することができました。私は経営企画チームを立ち上げ、全診療科の患者数や紹介数、救急患者数など診療実績を可視化し、職員全員に経営意識をもってもらい、コロナ禍で入院患者数が少ない状況でも日当点を向上させることを目標とし、様々な加算や指導料を徹底して算定するように呼びかけました。
 また、2020年には地域連携室を整備し、入院支援室とがん相談支援室からなる患者支援センターを設立しました。副院長着任直後から私は地域の医療機関を訪問して、直に開業医の先生方のお話を伺ってきました。訪問の目的は当初、当院のアッピールのためというより、開業医の先生方からの当院の評価を伺うのが目的でした。厳しいご意見もありましたが、“最近は緊急の患者対応の依頼にも迅速に対応してくれています”など、当院は地域の信頼を失っていないことを実感しました。(病院訪問は今でも診療科医長の先生方にも勧めているのですが、いいことがたくさんあります。医院のホームページの記事や待合室の掲示物などには院長先生の考え方、お人柄が現れています。また、実際に訪問しないとわからない地理的な位置や、当院までの通院にかかる時間を知ることができ、逆紹介する際の貴重な情報にもなります。厳しいご意見やご指摘のなかには多く改善のヒントが隠されています。)市内の医療機関の皆様には突然の訪問にもかかわらず、快く対応していただき、心より感謝いたしております。今年度からは地域の医療機関にアンケートをお配りし事前予約をとって訪問するようにいたしております。またWEB訪問(右写真)も開始しましたが、感染状況に左右されず、ゆっくり対談ができ、スライドなどを用いて当院の状況を詳しくお伝えすることができ、大変有用な方法と実感しております。今年度発表される第8次医療計画では外来診療の機能分化と連携が叫ばれ、かかりつけ医制度の推進と紹介患者重点医療機関の指定が提唱されています。当院も来年度、紹介患者重点医療機関の指定を受け、積極的に紹介患者を受け入れると同時に治療が完結した患者様は積極的に逆紹介していく体制を構築していこうと考えており、そのためにも患者支援センターを中心に顔の見える親密な地域連携を目指していきます。
 当院が地域から求められている最も重要な役割の一つが救急医療と考えています。当院は2次輪番病院であり、津医療圏内救急車の3割にあたる年間約4000台を受け入れています。しかしながら、2019年当時、多くの診療科で医師が不足し、頻回の救急当直で疲弊し、お断り件数も多く、救急医療を支える医師の獲得が喫緊の課題でした。そこで、三重大学医学部付属病院救急救命センターの今井教授にお願いし、今年度から常勤救急医(江角亮先生)を派遣していただきました。一方で臨床研修部を支援しZOOMによる説明会や初期研修医のビデオ作製など広報活動を活発に行い初期研修医の確保に尽力しました。その結果、昨年は6名、今年は8名の初期研修医が入職し、現在総勢14名の初期研修医が研修しております。また近年、当院に残ってくれる後期研修医も増え、診療部が活気づいており、新たに研修医が入ってくれる好循環が芽生えつつあります。救急医療の推進には受け入れた患者をバックアップする若い専門医が必要になります。来年度には新救急棟も建設予定です。さらに若い医師を増やして今後ますます津市の2次救急医療機関としての役割をしっかりと果たして参ります。
 さて、2020年1月以来、新型コロナ感染症は2年以上にわたって、津地区の医療界に大きな影響を及ぼしてきました。当院は重点医療機関として武漢からの渡航者の第1例目から現在まで、660人以上の新型コロナ入院患者を受け入れてきました。第7波が襲来し、7月29日には県内で過去最高の3500人、津市内でも600人の新型コロナ感染患者を記録ました。当院のコロナ病床は現在ほぼ満床状態ですが、次々と入院要請がきて、職員は一丸となって対応してくれています。しかしながら最近、当院職員にも感染者や濃厚接触者が増え診療に支障が出てきております。新型コロナ対応と津市輪番体制を死守しながら、限られたスタッフでどのように通常診療を継続していくか?幹部の舵取りと現場のスタッフの底力が試されています。このような危機的状況で最も重要なことはやはり地域の連携だと思います。新型コロナ患者の後方支援の医療機関様にはたくさんの治療後の患者を受け入れて頂いています。また、重症コロナ肺炎や若い新型コロナ陽性の胸髄損傷例など、当院で対応困難な症例では三重大学医学部付属病院の先生方に大変お世話になりました。医師会の先生方もたくさんの発熱患者を診ていただいております。それぞれがそれぞれの役割を果たし協力しながら連携の輪を広げていく。そして新たな施設がその輪に加わり、体制がより強固になっていくことで初めて5類への移行が現実味をおびてくるのではないでしょうか?重点医療機関である当院といたしましても地域の医療機関の皆さんが新興感染症に安全に対応できる体制を構築していただけるよう、できる限り協力していく所存です。行政(国)や大学関係者様にはアフターコロナにむけて、感染症に関するしっかりとした医学教育体制を構築すること、ワクチンや治療薬の開発を担う研究者や、感染症だけではなく、公衆衛生や災害医療といった広い見識をもって行政とも連携できる人材を育てていただくことを要望いたします。
 最後に、新型コロナ患者対応や救急医療においてご支援をいただきました津地区および久居一志地区医師会及び近隣の医療機関の皆様、また三重県や津市や救急隊の皆様に心より感謝いたします。今後とも当院の活動にご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

2022年4月7日
院長就任挨拶 ~地域から信頼される病院を目指して~

 令和4年4月1日、新しく院長を拝命しました下村誠です。どうぞよろしくお願いいたします。私は三重県大台町の生まれで、松阪高校を出て三重大学にすすみ、卒業後は三重大学第一外科(現在の肝胆膵・移植外科)に入局し、開院の翌年1999年に初めて当院に赴任しまいた。10年間外科医として研鑽をつみましたが、2009年に松阪市民病院へ転勤し、2019年10年ぶりに当院に副院長として復職しました。松阪市民病院では2018年に副院長になりましたが、名ばかりの幹部でほとんど会議には参加していませんでした。当時の経営担当の世古口務先生から病院経営についてはいろいろと教えていただきながら、とにかく患者をふやすために、開業医回りをしながら手術を指導している毎日でした。3年前、当院へ副院長として戻ってまいりましたが、とにかく田中院長やいろんな方に教えていただきながら、しどろもどろで会議の司会をこなしており、スタッフの方には大変ご迷惑をおかけしました。医療安全では伊藤 栗本師長に助けられ 経営企画チームでは高橋、池畠室長はじめ事務方のスタッフ、患者支援センターでは長谷川先生や看護師さん、MSWや事務方にご協力いただき、なんとかやってきました。しかし、どの分野においてもまだまだ道半ばで、あとを後任の先生方に託すことになり申し訳なく思います。副院長として十分できたかどうかはなはだ疑問ではありますが、なんとかやってこれたのも、新参者の私を快く受け入れてくれた職員の皆様のご協力と深く感謝いたしております。

さて、今日はこの孟子の言葉からはいりたいと思います。
“天の時は地の利に如かず、地の利は人の和にしかず”。
争いに勝利するために大事なことは3つ 天の時(天候)、地の利(地理的優位)、人の和(団結力)である。組織になぞらえるとすると天の時は時流、地の利は他社にない強み、人の和は結束、チームワークといったこところでしょうか?地の利は天の時よりも大事で、人の和は地の利よりも大事。つまり最も大事なことは人の和であるということになります。当院も組織として戦っていなかないといけません。
まずは天の時;時流についてお話します。現在の医療の直面する問題は

  1. 人口減少と地域医療構想、
  2. 新型コロナウィルス感染、
  3. 医師の働き方改革

この3つです。

1.人口減少問題(上図)。グラフは日本の人口の推移を示しています。すでに現在日本の人口は減少局面を迎えています。2065年には総人口が9000万人を割り込み、65歳未満の生産者人口は今後急速に減少し、2065年65歳以上の高齢化率は38.4%にまで上昇します。人口減少と在院期間の短縮によって、急性期病床の需要は年々減少することが予想され、2015年国は下図のように2025年までに急性期病床を縮小し回復期病床を増床するいわゆる地域医療構想を提唱しました。しかし、その計画は遅々として進まず、2020年度でもほとんど変化がない状態です。このような状況で今回の新型コロナウィルス感染が起こりました。

 下のグラフは国別の人口1000人当たりの急性期病床数の比較です。日本は欧米に比べてベット数が多いことがわかります。新型コロナ感染者が欧米に比べて少ないにもかかわらず、そしてベット数が多いにも関わらず、なぜ日本で医療崩壊がおこったか?

下グラフは先進国のなかでの急性期病床1床当たりの医師、看護師数の比較です。日本は欧米に比べて1床あたりのスタッフの数が極端に少ないことがわかります。 つまり、病床数が多いため、スタッフが分散し、平時でも忙しく、余裕がない人員配置になっている

のです。そこにただでさえ手間のかかる新型コロナ感染者が多数入院してきたらどうなるか? 結果は火を見るよりも明らかです。

上グラフは一病院当たりの新型コロナ患者の受け入れ数の分布です。10床未満の病院が40%、20床未満が65%と多くを占め、ひょっとすると受け入れていない病院はもっと多いではないかと思います。
このように日本では急性期病床は多いのですが、多数の病院に分散しており、医療スタッフも分散し、スタッフひとりひとりの余裕や、病院あたりの予備力がないために感染者の受け入れができない状況にあるといえます。国は2022年改訂において、急性期病床を減らし、医療資源を集約することによって、新興感染症に対応できる体制を作ることを考えており、アフターコロナにおいてはふたたび地域医療構想の推進が強調されるでしょう。また、急性期病院とかかりつけ医との機能分化を進め、連携を推進するように求めてきております。
右図は今回、新たに新設された急性期充実体制加算の内容です。より高度で専門的な医療を提供する急性期病院(県内では伊勢日赤レベル)には高額のインセンティブをつけています。その要件は年間2000件の全麻手術を行い、350件の全麻の緊急手術を行っていることや、多くの腹腔鏡、内視鏡治療や心臓カテーテル治療を行い、かつ多数の救急車に対応し、新型コロナ対応もでき Rapid Response Teamを有し、紹介受診重点医療機関であることが求められています。現在の当院の実績では全麻手術数、緊急手術数、心カテ件数、内視鏡手術数などが要件に満たない状態です。この加算が意味するところは今後、急性期病院は、より高度かつ専門的な医療を提供する体制をとり、同時に退院支援体制や救急体制を整えなさいという国からのメッセージであり、こう言った急性期病院に医療スタッフを集約し、新興感染症対応と働き方改革をすすめていくことを意図しているのです。 このように厳しい医療情勢の中で当院が急性期病院として生き延びていくためにはどうすればよいでしょうか?当院の地の利(強み)を考えてみましょう。

 医療計画で定められている病院がはたすべき役割として5疾病5事業があります(左図)。5疾病とは脳卒中、がん、糖尿病、急性心筋梗塞、精神疾患で、5事業は救急医療、周産期医療、災害医療、小児救急医療、へき地医療です 新型コロナ感染を経験し、2024年度からの第8次医療計画では新興感染症が加わり5疾病6事業になります。当院はこのうち、脳卒中、がん、糖尿病、急性心筋梗塞の4疾病と、救急医療、周産期医療、災害医療、新興感染症の4事業を手掛けており、地域にとってはとても重要な急性期病院であることはいまさら言うまでもありません。
当院は左図のように津市の南方に位置し、久居一志地区の住民を集患しています。津市の他病院は市街地に密集しており、医療圏はやや分かれています。大学を除いて当院は唯一の総合病院であり、前述した当院の強みを生かせば、津市南部の南ヶ丘や香良洲地区はもとより、中川、嬉野地区の患者をさらに集患することも可能かと思います。
さて組織として最も大切な人の和についてはどうでしょうか?
私は今回の新型コロナ感染対応でみせていただいた当院の人の和を信じています。

 上図のように当院はこれまでの2年以上の間で約550名以上の入院患者を受け入れてきました。2020年1月に武漢からの渡航者を受け入れた1例目から長良医療センターへの派遣など多くの問題が発生し、そのたびにいろいろと対応を考えてきました。第5波では津市の医療崩壊を受けて、救急輪番を中止し西2病棟を開棟し、夜間の新型コロナ患者の受け入れを行い、第6波では救急輪番をこなしながら、西2コロナ病棟の運用を行いました。また、つらい院内感染も経験しました。この間、ほとんどの部署のほぼ全職員が様々な役割で協力していただきました。特にワクチンもなかった第1、2波において専従で戦っていただいた井端先生はじめICT、発熱外来、西7病棟のスタッフの皆さんと、多くの妊婦さんの分娩や帝王切開を手掛けていただいた前川先生はじめ周産期センターの皆さん、麻酔科の長谷川先生はじめ手術場スタッフの皆さん、混乱のなかで、急遽西2病棟を立ち上げ、重症例にも対応して頂いた西3病棟のスタッフの皆さん、第6波では自発的に病棟管理を担当して頂いた西2,西7病棟のコアメンバーの先生方、皆さんの献身的な働きに心から感謝申し上げます。私も現場で皆さんの組織力と結束力を見て、当院の職員なら、これからも一緒にたたかっていけると確信しました。



さて、2019年副院長就任後すぐ、私は次の3つの目標を掲げました。
  1. 地域の医療機関からの選ばれる病院になる。
  2. 地域の住民から選ばれる病院になる。
  3. 職員から選ばれる病院になる。

 1については、着任早々、地域の医療機関を訪問して、直に当院の評価や当院に対する要望を伺いました。中には厳しいご意見もありましたが、多くの先生から最近当院がよくなってきている、とりわけ救急患者の要請を受けてくれるようになったというお言葉を頂きました。2020年には地域の医療機関との連携をさらに進めていくために患者支援センターを設立しました。このセンターでは地域の医療機関からの紹介や逆紹介を円滑に進める地域連携室と、入院がきまった患者様の退院後の生活のことまで考え治療計画をたてる入院支援室を整備しました。今後も当センターの活動をとおして顔の見える地域連携を目指します。
 2については、まずは津市の2次救急病院としての役割を果たすことに力を注いできました。当院は一次脳卒中センターであり、急性心筋梗塞や急性腹症など多くの救急患者を受け入れております。今年度、当院は新たに常勤の救急医を招き、救急科を開設します。来年には新救急棟の建設も決定し、今後ますます2次救急医療機関としての役割を果たしていくことで地域住民から選ばれる病院にしていきたいと考えています。
 3については最も難しい課題だと考えています。
現在、一部の診療科では医師が足りずに厳しい労働条件の中でなんとか頑張ってくれています。三重大学に足を運び医師の派遣を要請し、昨年は眼科、放射線科、整形外科、産婦人科で新しい医師にきていただきましたし、今年度は消化器内科と救急科の医師が新たに着任予定です。今後も三重大学への医師の派遣要請は継続していきます。また、この3年間初期研修医の獲得に尽力してきましたが、田中淳先生のご尽力もあり今年度は8名の新たな初期研修医の入職が決定し、総勢14名の初期研修医が研修する予定です。また後期研修医も7名新たに加わります。指導体制を整え、若い医師の確保を着実に進めていくことで病院は活性化し、医師の働き方改革にも寄与します。医療水準を落とさないように、働き方改革をすすめながら、医師から選ばれる環境づくりを進めていきたいと考えています。
 また、チーム医療の拡充やワークライフバランスの取り組みによって看護師や薬剤師、臨床検査技師、臨床放射線技師、リハビリなどコメディカル部門や、MSW、心理士など、多くの職種で慢性的な人材不足が生じています。NHOの制約もありますが、当院に訪問してくれる看護学生や実習生に対しても丁寧な指導をしていくことで人材を確保していき、タスクシフトがしやすい環境を整えていくことも重要な課題だと考えております。
この3つの目標は今後も基本的方針として継続し、真に地域から信頼される病院を目指していきたいと考えております。
職員の皆様の力が必要です。ご支援よろしくお願い申し上げます。

2022年4月1日


 

 

 

2024年4月15日
新救急外来棟オープンによせて

 いよいよ2024年4月10日、新救急外来棟がオープンしました。
当院は津市の2次輪番病院であり、脳卒中や心筋梗塞など、より重症で緊急の治療を要する3次救急患者にも対応をしています。津市の救急要請件数は年々増加しており救急医療は地域から期待される最も重要な役割の一つであると考えております。
 実は2021年度までは日中の救急車の受けいれは内科や外科の医師が当番制で対応する体制をとっていましたが、当番医が検査や手術中の際はやむなくお断りするケースもありました。そこで2022年度、救急科を新設し救急専門医の江角亮先生にきて頂き、日中の救急車の受けいれを専門に担当して頂きました。また、救急患者の初期対応を担当する初期研修医の人数が大幅に増えた事(図1)や、救急救命士を採用したことで救急患者を受け入れるスタッフが充足し日中や救急輪番日に救急車の受け入れをお断りすることがほとんどなくなりました。その結果当院の救急車の受け入れ件数は2022年度から飛躍的に増加し、2023年度は5612台に達しました(図2)。この数字は津市の救急車要請件数の約3分の1にあたり、1日平均15台の救急車を受け入れたことになります。多い日には1日で60人以上の患者が殺到する日もありました。
 しかし当院の旧救急室は非常に狭く、救急室に収容できないために、患者様を救急隊のストレッチャー(搬送用ベット)にのせたまま待合室で待機して頂いたこともあり救急隊の皆様には大変ご迷惑をかけていたと思います。また、コロナ禍においては当院は重点医療機関としてのべ1200人以上の新型コロナ入院患者を受け入れてきましたが、救急室内でのゾーニングが困難で、野外の狭い仮設トリアージ室で診療を行っておりました。そういった状況で当院の救急外来スタッフにとって新救急外来棟の建設は長年の悲願であり、設計段階から積極的に関わっていただきました。2つの陰圧室を装備し新興感染症にも対応でき、同時に多くの救急患者を収容できる広い初療室を整備しました。また棟内にCT装置とレントゲン装置を設置いたしました。建設に際しては三重県や津市からは一部援助を頂きました。心から御礼申し上げます。
 津市の救急要請件数は今後も増加することが予想されますが、優秀な人材と働きやすい環境を手にしたことで、なお一層津市の救急医療をしっかりと支えていく所存です。津市の救急医療に携わる行政や医師会、救急隊、三重大学医学部附属病院はじめ地域の医療機関の皆様には引き続きご支援とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。